そして誰もいなくなった の真犯人について

ご覧いただきありがとうございます。今回はアガサ・クリスティ著、清水俊二訳の『そして誰もいなくなった』の真犯人についての考察記事です。
私は恥ずかしながら今日初めてこの作品を読んだのですが、自分の思った真犯人についてネット上やTwitter上ではどこでも触れられていないので、自分に見落としがあるのか、それとも他の人たちが見落としているのか、それを確かめるためにもこれを書いています。

1. ウォーグレイブが犯人でないと思う理由
これについては、先人のブログhttps://www.saiusaruzzz.com/entry/2019/10/24/120000がとてもわかりやすいのでいくつか引用させていただきます。
①ウォーグレイブとアームストロングの協力関係は成り立たない。
まず根幹となるウォーグレイブ犯人説に必ず必要となってくるアームストロングの偽証。しかしブログで述べられている通りアームストロングは序盤の時点でウォーグレイブをあまり信用していませんでした。いくら状況が変わったからと言ってそのような危なくて未知数な作戦に協力するほどに心変わりするでしょうか。(しかし、これは外部世界からは窺い知れない心情背景なので警察は見破れない)
②ウォーグレイブの死が偽装は無理がある
そして仮にアームストロングとの協力関係が成り立っていたとしても、果たして何の工夫も無しに死を偽装できるでしょうか。他の人は遠目に見ただけ、とかならばまだいいですが彼らは死体を運搬しています。その際に体の冷たさや傷跡の違和感に気づかれてしまう可能性は大いにあったと言えるでしょう。もし気づかれないようななんらかの工夫をしたのであれば完全な犯罪を謳うボトルメッセージ内の犯人は意気揚々とその工夫・トラックについて述べているはずです。
(これについても死体が他の人たちによって運ばれたことは外部世界からは窺い知れず、警察は見破れない)
③ウォーグレイブの心情描写の文章を踏まえてこの舞台を用意した犯人なのは無理がある
これについては引用ではないですし少し不確定なのですが、ウォーグレイブの最初の心情描写ではレディ・コンスタンス・カミルトンから島に招かれたことや彼女が島を買いそうだ、ということが書かれており彼が島を手に入れこの舞台を用意したというにはいささか矛盾した心情描写のように思えます。

では真犯人は誰か。
それは、ウィリアム・ヘンリー・ブロア警部です。
その犯行方法などについて触れる前にウォーグレイブが犯行不可能な理由④を提示しましょう。
④ブロア殺害の殺害方法があまりにも不確実すぎる
終盤に行われたブロア殺害は、告白文には頭上から大理石(熊時計?)を落として除いた。とだけ書いてありますが果たしてそんな殺害は可能なのでしょうか。頭上から何か物を落として殺人する際には一回でもミスをしたら終わりです、被害者は自分が殺されそうになったことに気づき、犯人を追い、止むを得ず美しくない犯罪をすることになる。ですのでもし仮に大理石を落として殺すとしてもなにか被害者がその場に止まるような仕掛けは必要なのです。そして②と同様にウォーグレイブがなんらかの仕掛けをしているならばそれはボトルメッセージで意気揚々と語られているはずなのです。
よって、あの殺人はもっと違う意味を持ってきます。あのブロアのものとされた死体は確かに死んでいます。しかし、それは空中から大理石を落としたものによるものではない。ならばどうだろうか、ブロアが事前に死体を用意しておき、自分の服をその死体に着せて上から大理石を落として頭を潰すことで身元確認を出来なくする、というトリックは成立するのではないでしようか。死体がどこに隠されていたか、それはいくらでもあるように思えますのでここでは省略します。(死体が隠せないと思った方がいらっしゃればそのご意見をコメントで伺えればと!)ブロアがわざわざ食事のために館に戻り、同伴しようとしたロンバードを拒否したのもこの偽装工作のためなのです。
ブロアの心情描写には犯人を警戒するようなものが多くありますが、これについては他の者たちが自暴自棄になり他人を殺そうとしてくるのではないかということを警戒していた、とすれば説明がつきます。
こうしてブロアは完全犯罪を成し遂げました。しかし、これだけではまだ完全犯罪ではありません。あのボトルメッセージによるウォーグレイブの偽の告白を社会が真実と受け入れることで、ブロアは社会全てを騙せたことになるのです。あのボトルメッセージすら、いわば犯行の続きなのです。
ウォーグレイブの動機としてあげられている、殺人事件に多く関わることで自分も最高の殺人をしてみたくなった、という動機は恐らくそのままブロアの動機でもあるのでしょう。最後の警察のシーンでブロアは罪人を裁くような人では無かった、と言われていますがそれもそのはず、彼の真の目的はウォーグレイブに罪を被せて誰も見抜けない完全犯罪をする、ということだったのですから。
考察は以上です。正直言ってまだあまり読み返してもいないので多分矛盾点などもあるのかもしれません。それでも、この古典を解き明かす一助になればと思い、この文を書かせていただきました。
ご拝読ありがとうございました。

アリス・ミラー城の動機考察

 皆さま始めまして、ミス研に所属するとある大学生です。

 今回は北山猛邦先生の「『アリス・ミラー城』殺人事件」の考察記事です。ミス研の読書会のレジュメに使用したものからコピペしつつ投稿させていただきます。ネタバレを多分に含みますので未読の方はお気をつけください。

・犯人の動機の矛盾

アリス本人から語られた動機は酸性化しすぎた地球を救うため酸性化の原因である人間を殺害し中和剤として再利用しようというなんとも壮大なものだが、これは彼女の本当の動機なのだろうか。人間の体液のphは7.4程度、対して島の泉のphは4.5、日本の一般的な土壌のphでさえ6.0だ。酸性化の原因を除去するという点を考えても明らかに効率が悪すぎる。なんなら人身売買してその儲けで大量に石灰を作らせた方がはるかにましだろう。アリスが環境保全に魅入られた狂人であったとしても明らかにこの動機は嘘である。いくつかそれを補強する根拠がある。


・鷲羽の殺害時に硫酸が使われている

硫酸は言うまでもなく強酸性である。死体により酸性を中和しようとしているのにその死体に強酸性のものをかけてしまっては元も子もない。

・毒殺や銃殺を避ける理由の曖昧さ

とりあえず死体が欲しいなら明らかに毒殺や銃殺の方が反撃の可能性が少なく、楽である。しかしアリスはその方法を取らず、斬殺刺殺など血の出る殺害方法に拘っている。

・血の出る殺害方法

人間の体液は弱アルカリ性である。これから中和しようというのにわざわざアルカリ性の溶液を漏らさせる意味があるのだろうか。



本当の動機…快楽殺人?

動機が嘘ならば殺人に至る真の動機は別にあることになる。ここで殺害方法について振り返ってみると、ルディ以外の凶器はナイフや手斧といった血が出るものに拘っているのに対しルディのみ殺害方法が溺死。この事実から自分はルディ以外に対し血が出る殺害方法に固執する理由は快楽殺人だからなのではないかと考える。楽に殺せるからという考え方もできるがその点では毒殺や銃殺のほうが遠距離・遠隔殺人を行えて抵抗される恐れがなく楽だ。そしてアリスがこれらを行わないといった理由は前述の通り曖昧である。実際はこれらの方法を行わなかった真の理由は血が見られないからなのだ。

また、ルディのみ殺害方法が異なった点についても、ルディ以外は殺したことを実感することが目的だったが、親しいルディを殺したことは実感したくなかったから殺害方法を変えたのだと考えられる。


大量殺人にあこがれを持っていたアリスがある日、地球のため、という何よりも強い大義名分を手に入れたことで殺人が実行可能になった。本人は本気でエコロジーのことを考えているつもりなのかもしれないが信念は常に殺人にあったのだろう。彼女の賛同者たちも同様に殺人の大義名分が欲しかった人間たちである。

もしくはアリス自身快楽殺人者であることを自覚し、単に面白がって彼女にとって自分の残虐な行為と真逆に位置する「正義」と思えるようなエコロジーを出すことでその歪さを楽しんでいるのかもしれない。


また、動機の謎に付随して存在するのが堂戸の死の謎です。


・堂戸の死の謎

追われて殺されたはずなのに傷は腕と首。仰向けに倒れている。

堂戸がアリスと対峙した?→堂戸は鏡越しにアリスを見て部屋から逃げ出し、ルディの呼びかけにも非常に怯え逃げ出している。また、堂戸は登場するたびに臆病な面を出している。P.44では山根に話しかけられただけで驚愕のあまり悲鳴を上げ、p159では帰りの船が来るまで部屋に閉じこもろうとする。よって堂戸は追ってきているアリスやルディに気づいたとしても足を止め向かい合うことはなかっただろう。しかしなぜ彼女は(おそらく)前方から攻撃を受け、仰向けになって死んでいたのか。

堂戸は死んだ時にもバッグを強く握りしめており、そのまま死んでいる。もし体力が続かなくなって止まらざるを得なくなったならバッグは手放されている、もしくは弱々しく握っている程度だろう、つまり体力が無くなって追いつかれて対峙した末に殺されたわけではない。体力が無くなったわけではないがバッグを使って戦おうとしたというのも行き止まりならともかくまだ奥に道が続いている場所では、あれだけ怯えていた堂戸には不可能だろう。

つまり彼女は走っている途中に殺されたと考えられる。腕に切り傷があることからも何回も攻撃されたのだろう。しかし、走りながら殺された場合後ろから首を切られたということになるが、その場合後ろ側には殺人者がいるので前に倒れるしかない(つまりうつ伏せになる)

ここで矛盾が生まれてしまうがしかし、アリスの真の動機と考えられる快楽殺人のことを思い出して欲しい。堂戸の周りが踏み荒らされていることも考えると、アリスは一度殺したうつ伏せに倒れた堂戸をひっくり返してその死に顔を見ようとしたのではないか。


ひとまず現在の考察は以上の通りとなっています、ご意見などあればコメントお待ちしております。また、気づいたことがあれば随時更新していければと思っております。


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