アリス・ミラー城の動機考察

 皆さま始めまして、ミス研に所属するとある大学生です。

 今回は北山猛邦先生の「『アリス・ミラー城』殺人事件」の考察記事です。ミス研の読書会のレジュメに使用したものからコピペしつつ投稿させていただきます。ネタバレを多分に含みますので未読の方はお気をつけください。

・犯人の動機の矛盾

アリス本人から語られた動機は酸性化しすぎた地球を救うため酸性化の原因である人間を殺害し中和剤として再利用しようというなんとも壮大なものだが、これは彼女の本当の動機なのだろうか。人間の体液のphは7.4程度、対して島の泉のphは4.5、日本の一般的な土壌のphでさえ6.0だ。酸性化の原因を除去するという点を考えても明らかに効率が悪すぎる。なんなら人身売買してその儲けで大量に石灰を作らせた方がはるかにましだろう。アリスが環境保全に魅入られた狂人であったとしても明らかにこの動機は嘘である。いくつかそれを補強する根拠がある。


・鷲羽の殺害時に硫酸が使われている

硫酸は言うまでもなく強酸性である。死体により酸性を中和しようとしているのにその死体に強酸性のものをかけてしまっては元も子もない。

・毒殺や銃殺を避ける理由の曖昧さ

とりあえず死体が欲しいなら明らかに毒殺や銃殺の方が反撃の可能性が少なく、楽である。しかしアリスはその方法を取らず、斬殺刺殺など血の出る殺害方法に拘っている。

・血の出る殺害方法

人間の体液は弱アルカリ性である。これから中和しようというのにわざわざアルカリ性の溶液を漏らさせる意味があるのだろうか。



本当の動機…快楽殺人?

動機が嘘ならば殺人に至る真の動機は別にあることになる。ここで殺害方法について振り返ってみると、ルディ以外の凶器はナイフや手斧といった血が出るものに拘っているのに対しルディのみ殺害方法が溺死。この事実から自分はルディ以外に対し血が出る殺害方法に固執する理由は快楽殺人だからなのではないかと考える。楽に殺せるからという考え方もできるがその点では毒殺や銃殺のほうが遠距離・遠隔殺人を行えて抵抗される恐れがなく楽だ。そしてアリスがこれらを行わないといった理由は前述の通り曖昧である。実際はこれらの方法を行わなかった真の理由は血が見られないからなのだ。

また、ルディのみ殺害方法が異なった点についても、ルディ以外は殺したことを実感することが目的だったが、親しいルディを殺したことは実感したくなかったから殺害方法を変えたのだと考えられる。


大量殺人にあこがれを持っていたアリスがある日、地球のため、という何よりも強い大義名分を手に入れたことで殺人が実行可能になった。本人は本気でエコロジーのことを考えているつもりなのかもしれないが信念は常に殺人にあったのだろう。彼女の賛同者たちも同様に殺人の大義名分が欲しかった人間たちである。

もしくはアリス自身快楽殺人者であることを自覚し、単に面白がって彼女にとって自分の残虐な行為と真逆に位置する「正義」と思えるようなエコロジーを出すことでその歪さを楽しんでいるのかもしれない。


また、動機の謎に付随して存在するのが堂戸の死の謎です。


・堂戸の死の謎

追われて殺されたはずなのに傷は腕と首。仰向けに倒れている。

堂戸がアリスと対峙した?→堂戸は鏡越しにアリスを見て部屋から逃げ出し、ルディの呼びかけにも非常に怯え逃げ出している。また、堂戸は登場するたびに臆病な面を出している。P.44では山根に話しかけられただけで驚愕のあまり悲鳴を上げ、p159では帰りの船が来るまで部屋に閉じこもろうとする。よって堂戸は追ってきているアリスやルディに気づいたとしても足を止め向かい合うことはなかっただろう。しかしなぜ彼女は(おそらく)前方から攻撃を受け、仰向けになって死んでいたのか。

堂戸は死んだ時にもバッグを強く握りしめており、そのまま死んでいる。もし体力が続かなくなって止まらざるを得なくなったならバッグは手放されている、もしくは弱々しく握っている程度だろう、つまり体力が無くなって追いつかれて対峙した末に殺されたわけではない。体力が無くなったわけではないがバッグを使って戦おうとしたというのも行き止まりならともかくまだ奥に道が続いている場所では、あれだけ怯えていた堂戸には不可能だろう。

つまり彼女は走っている途中に殺されたと考えられる。腕に切り傷があることからも何回も攻撃されたのだろう。しかし、走りながら殺された場合後ろから首を切られたということになるが、その場合後ろ側には殺人者がいるので前に倒れるしかない(つまりうつ伏せになる)

ここで矛盾が生まれてしまうがしかし、アリスの真の動機と考えられる快楽殺人のことを思い出して欲しい。堂戸の周りが踏み荒らされていることも考えると、アリスは一度殺したうつ伏せに倒れた堂戸をひっくり返してその死に顔を見ようとしたのではないか。


ひとまず現在の考察は以上の通りとなっています、ご意見などあればコメントお待ちしております。また、気づいたことがあれば随時更新していければと思っております。


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